寮の玄関で俺はただ考えを巡らせていた。
ここに来て…もう二ヶ月…まだ二ヶ月。

多くの友と思い出と切なさと…あとは何を得たのだろう。
多すぎて、一度じゃ思い出し切れない。いや…

ただまだ距離を感じているのだろうか？

そんなことを思う。そういえば…俺は弄られると面白いとか言われた。
俺は全然それは無いと思うんだけど…
いつも必死に状況に対応しているだけで、それで笑われるのも、なぁ？（汗）
あ……そういえば。

俺は自分の鼻を抑える。

いつも俺を苦しめる精神に反応して痛みを放つ鼻。
その悩みを種を…俺は「その状況」以外で俺はコイツを意識したことはない。
女性に近づくだけで反応。おまけに下手をすれば濁流のように鼻血が出る始末。

まぁ…こいつのお陰で皆と早く打ち解けたことくらい、俺でもわかるつもりだ。
けれど、全然改善していないというのも考えもので、ため息しか出てこない。

………………俺は人間が怖い。特に女性には特有の鼻が反応する。
女性には甘い香りが漂い、それに男性は誘われることは少なくない。
まぁ…俺の場合は視界に女性と意識する物が入っただけで厳しいが…
しかしながら、俺はその香りが苦手だ。なぜか？

それは俺の過去にも関係することなんだけれど、一言で表すなら「罪悪感」

皆には苦労をかけている。免疫をつけろ、または頑張れとか良く言われているような気がする。
けれど…この鼻は俺の心の問題であって…そう簡単に直る物でも無いのかも。

比良坂さんに言われた「その鼻血が反応しない女性こそ、お主の運命の人ということか？」

……どうなのだろう？
恋とかそういう感情は、なんとなく俺は理屈としては知っているつもりだ。
俺は昔、その「恋」を利用した商売を行っていたのだから、そうじゃなきゃ仕事にならない。
だけれど…実際に自分のこととなると、現実味が一気に消滅するんだ。

誰かに依存して、誰かを縛って、誰かを求めて、誰かを大切にし、誰かを守りたいと願い。
誰かを……

その瞬間、鼻がギリリと痛みを放つ。
頭も痛い。

俺に、その世界が素晴らしいと呼び定義し…皆が求める「恋」という感情を持つことができるのだろうか。
いや…俺の正義で計った時、「恋」は果たして世界と同じように素晴らしいと感じることができるのだろうか？
もしかしたら、「恋」を否定し、「自己正義」の元で俺はそれを拒絶することもあるかもしれない。

俺は…視界が捩れる中で、自分の部屋への帰路を辿った。